CO2分離回収技術の開発に挑む 3
当社は、2025年に「MOFの開発」でノーベル化学賞を受賞された京都大学 北川 進 理事・副学長 高等研究院特別教授のグループと共同研究を進めています。
研究開発の最前線に挑む社員たちの座談会

クラサスケミカルでは、ノーベル化学賞を受賞した北川進先生が発明したPCP(金属有機構造体/MOFとも呼ばれる)を使用した低濃度CO₂の分離回収技術の研究を行っています。これは2022年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業に採択されたテーマで、現在は、社内に設けたベンチ装置によって、社会実装に必要な実験データを収集し、検討を重ねている段階です。実際に研究開発に携わっている社員の皆さんに集まっていただき、お話を伺いました。
Y.K.さん
I.G.さん
U.M.さん
K.W.さん
■座談会に参加してくれた皆さん■
Y.K.さん(技術開発部開発1グループ):CO₂分離・回収のためのベンチ装置(実験用の試験機)を運転してデータを収集し、PCP(MOF)の性能評価を行う。
I.G.さん(技術開発部開発1グループ):Y.K.さんが運転するベンチ装置の運転計画を管理し、PCP(MOF)の性能評価のためのデータ収集・解析を行う。PCP(MOF)を長期使用するための耐久性評価も担当。
U.M.さん(技術開発部開発1グループ):ベンチ装置で使用するPCP(MOF)材料の開発を担当。粉末状のPCP(MOF)をペレット化するため技術開発を行う。
K.W.さん(生産技術部):CO₂分離・回収のための設備最適化を担当。技術開発部が収集したPCP(MOF)に関するデータを基に、実機化するにあたって必要となる機器や設備を検討。コスト計算も行う。
材料開発、実験データの蓄積、設備検討の3つのチームで社会実装に挑む
----低濃度CO₂の分離回収技術の確立に向けた、皆さんの業務内容を教えてください。
Y.K.:私とI.G.さんは、「どのような条件を整えればPCP(MOF)がCO₂を効率よく分離・回収できるのか」を検証するために、圧力・流量・温度などの条件設定を変えてベンチ装置を運転し、データを収集しています。
U.M.:私は、そのベンチ装置で使うPCP(MOF)のペレット化を担当しています。もともとPCP(MOF)は粉末状ですが、工業の現場で使うためには固形化してペレット状にする必要があるんです。どのように成形すれば使いやすく、かつ性能を最大限に引き出すことができるのか、Y.K.さんたちと話し合いながら、さまざまなペレットを試作しています。
K.W.:私は生産技術部として、実機化のためのプロセス開発を担当しています。Y.K.さん、I.G.さんがベンチ装置を使って収集したデータを基に、「実際に〇倍のスケールで使うとすると、このような機械設備が必要になる」などをコスト面も含めて検討しています。
----PCP(MOF)の工業材料化、PCP(MOF)を使ったCO₂の分離回収のための条件設定、そしてそのための設備開発。3つのチームで連携をしながら研究を進めているんですね。
新素材だからこそ、やりがいも大きい
----実際の技術開発について伺います。まずペレット化には、どのような課題があるのでしょうか。
U.M.:「性能の高いPCP(MOF)を量産するための、工業的な製法を確立する」というミッションを達成するために、新たな成形法を開発する必要があります。添加剤や成形に関する条件を決定するために、試行錯誤しました。
----「性能の高いPCP(MOF)」とは、どういう点が優れているのですか。
U.M.:いろいろありますが、主にCO₂の吸着率や吸着スピードです。ペレット材として成形するときにかかる圧力や添加剤の比率によってPCP(MOF)の働きが変わるので、Y.K.さんのチームが行っているベンチ装置実験のデータを見ながら調整を進めています。
---- データ収集を行うベンチ装置での実験について、工夫していることを教えてください。
I.G.:PCP(MOF)は新しい材料なので、どのような条件で評価すべきか手探りの状態です。網羅的に実験すると時間が足りないため、U.M.さんのチームからもらったPCP(MOF)に関するデータや研究室レベルでの基礎的なデータを参考にしながら、ベンチ装置を運転する温度、圧力、流量の条件を決めています。また、出てきたデータをしっかり吟味して次の実験条件を絞り込むことも重要です。
Y.K.:ベンチ装置そのものも今回のPCP(MOF)実験のために新しく設計したものなので、装置の立ち上げ段階では苦労をしました。上司に相談しながら実験のスタート期限に間に合わせることができましたが、まだゴールではありません。実験が進むにつれて、配管ラインの追加など手直しが必要になることもあるので、臨機応変にカスタマイズをしながら運転しています。
---- PCP(MOF)という新しい材料ゆえに、柔軟な姿勢が求められるんですね。
I.G.:フレキシブルかつ慎重に向き合っています。実験データを整理・解析するときには数字を正しく扱えているか一つ一つチェックをしていますし、実験データを生産技術部に渡す際にも丁寧な対応が必要です。前提条件や計算方法を正しく伝えないと間違った設計になってしまうため、じっくりコミュニケーションを取りながら情報共有をしています。
K.W.:私たちの部署ではベンチ装置による実験データをもとにプラント設備の最終的なコストを算出するのですが、「逆に、こういう条件だったらもっと安くできる」と技術開発部にフィードバックをすることもあります。設備設計をするためにはどういう条件のどんなデータが必要なのか、Y.K.さんやI.G.さんと議論をしながら実験を進めてもらっています。
I.G.:プロジェクトとして進行スケジュールが定められている中、限られた時間の中でどれだけ実験データが取れるかが勝負ですよね。
K.W.:はい。スピード感も重要なので、目標に向かって最短距離で進むためにチーム間でのコミュニケーションが不可欠です。
----チームワークを大事にしているんですね。
Y.K.:週1回にミーティングをして進捗状況を報告し合っていますし、担当者同士でも「ちょっとここ、わからないので教えてください」と小まめに相談をするようにしています。
I.G.:当社はCO2分離回収技術を2030年代後半に実用化させることを目標にすると同時に、回収したCO2を化学品にする研究開発も進め、回収後の活用まで一貫して取り組んでいるので、私たちも幅広い関係者とコミュニケーションを行っています。
K.W.:社内はもちろん、共同でNEDOのプロジェクトを進めている日本製鉄さんともフラットに情報交換をして、良いところを参考にさせてもらっています。
社会実装に向けた今後の目標とは
----ベンチ装置による実験をスタートして約1年、今後の目標を教えてください。
U.M.: PCP(MOF)をペレット化するための技術開発はかなり進んだと考えています。開発を通じでCO2削減に貢献したいと思っており、ベストを目指してより高性能のペレットの製造方法を確立したいです。
Y.K.:私たちのチームもベンチ装置の改良が進み、狙った通りに実験ができる段階になりました。社会実装に必要なデータをどんどん収集して、カーボンニュートラルの実現に貢献したいと思います。
I.G.:現在のベンチ装置による実験データ収集が終了した後は、もう一回り大きなパイロット機による検証にステップアップします。これまで検証してきたPCP(MOF)の性能をより高く引き出すための運転条件を踏まえて、パイロット機や実際の大きなプラントでも実用できる運転方法を確立して、世の中に役立つ技術としていきたいです。
K.W.:I.G.さんの言う通り、2028年からパイロット装置の建設が始まる予定です。運転条件や運転方法の確立に加えて、コスト削減のためのプロセス構築と、パイロット装置の設計に取り組みます。プレッシャ―を感じることもありますが、さまざまなところで使われる技術にしていきます。
----各チームとも、次のフェーズに向けて確実に進んでいることが分かりました。CO2を分離回収して利用することで、カーボンニュートラルへの貢献につながる技術として大いに期待されていることを実感しました。
皆さん、本日はありがとうございました。