CO2分離回収技術の開発に挑む 2

当社は、2025年に「MOFの開発」でノーベル化学賞を受賞された京都大学 北川 進 理事・副学長 高等研究院特別教授のグループと共同研究を進めています。

低濃度CO₂分離回収技術開発~石油化学メーカーとして果たすべき「社会実装」への道~

 当社は、ノーベル化学賞のテーマにもなったPCP(金属有機構造体:Porous Coordination Polymer/MOFとも呼ばれる)を活用した低濃度CO₂分離回収技術の開発に取り組んでいます。京都大学理事・副学長 北川進高等研究院特別教授とともに研究開発を進めている技術開発部の皆さんに、プロジェクトの経緯、現在の開発状況、そして今後の具体的な展望について聞きました。

革新的なCO₂分離回収技術、今どこまで進んでいるのか

  •  クラサスケミカルは、ノーベル化学賞で注目されたPCP(MOF)について、2009年から北川先生とともに共同研究を行ってきた実績があります。「今回のプロジェクトは、北川先生が開発されたPCP(MOF)を使い、工場などから出る低濃度CO₂を低コストで回収できないか、という発想からスタートしました。大学の持つ技術の種(シーズ)と、企業が求める解決策(ニーズ)を結びつけたことが始まりでした」北川先生のチームとの取り組みに一番多く参加しているW.Y.さんは、開発の経緯をこのように説明します。
     PCP(MOF)を使った革新的なCO₂分離回収技術の研究開発は、2022年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業に採択され、2つの企業と6つの大学による共同開発が本格化しました。

     このプロジェクトでは、2030年代後半の実用化を目指し、「分離材構造の決定」「量産方法・運転条件の検討」「パイロット実証」の3つの段階を2022年から9年間で進める計画です。開発部部長のS.S.さんは、現状を語ります。「現在は第2段階の開発フェーズにいます。CO₂の回収に適した分離材構造の特定は終え、試運転の段階に入りました」。
     2024年に社内にPSA(圧力スイング吸着法:Pressure Swing Adsorption)ベンチ装置を設置し、現在は膨大な実験データを収集中。効率よくCO₂を分離・回収するための最適な運転条件を検討しています。

  • 技術開発部のW.Y.さん
  • 技術開発部部長のS.S.さん
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「社会実装」を現実にする道のり

  •  このプロジェクトにおいて、クラサスケミカルが担っているのは、技術を実際の社会で使えるようにするプロセスです。そこにはどのような課題があるのでしょうか。
     「大学の研究室ではミリグラム単位でPCPを扱いますが、実用段階ではトン単位の規模が必要です。このスケールアップ技術の確立が、私たちの最大のミッションです」と技術開発部第1グループリーダーのO.K.さんは話します。原料の調達から、圧力や温度の調整方法など、多数のファクターについて検証を進めています。例えば、プラントで使用するためには粉末状のPCP(MOF)をペレット状に成型する必要があります。「ペレット化にもさまざまな選択肢がある中で、最善の方法を求めて試行錯誤しています。幸い、私たちはこれまでも化学物質の分離・回収について先進的な研究を重ねてきました。長年蓄積してきたノウハウを活用できることが、このプロジェクトにおける当社の強みです」とW.Y.さん。
     そして社会実装化にあたっては、経済性とエネルギー効率という二つの重要な要素があります。「広く使ってもらうためには、できるだけ低コストかつ省エネルギーで実用できる技術でなければなりません。CO₂の回収・脱着という基本的な技術は確立した今、2030年のプロジェクト完了に向けてさらに性能を高めていきます」とS.S.さんは力を込めます。

技術開発部第1グループリーダーのO.K.さん

より高い到達点へ

  •  長年にわたり研究開発を共にしてきた北川先生について、「非常に面倒見がよく、私たちにさまざまなアドバイスをくれる優しい先生です」とO.K.さん。2~3カ月ごとに京都大学で技術検討会を行うほか、年に一度は北川先生が大分の現場に来訪し、深い議論を重ねながら研究開発を進めてきました。
     「大学では学術的な価値を追求しますが、実用化を目指す私たちとしては『この条件でCO₂をキャッチできるPCP(MOF)が欲しい』と、具体的な要望を先生方に伝えます。すると、先生方が私たちの要望に応えるPCP(MOF)やアイデアを現場に提案してくれる。その新しい材料を私たちが検討し、フィードバックを重ねる。大学・企業の連携としては理想的だと思います」とW.Y.さん。
     「北川先生に『先日の実験、いい結果が出ましたよ』と進捗を報告すると、とても喜ばれます。研究を社会で生かすためのプロセスを重視してくださっていると感じます」とS.S.さんは、北川先生への感謝を述べます。「私たちも、北川先生の存在があるからこそ、高いモチベーションを保ちながらここまで来られました。今後も社会実装に向かって進んで行きます」。

「CO₂分離回収といえばクラサスケミカル」と言われるように

 社会実装に向けて、着実に歩みを進めているCO₂分離回収技術研究。工場やごみ処理場、LNG火力発電所など生活に欠かせない施設から排出されるCO₂を減らす、地球温暖化対策の切り札として期待が掛かります。また回収したCO₂を化学品に変えることで、COを資源として循環させることにも取り組んでいます。
 「私たちはCO₂分離回収の技術を完成させることで、カーボンニュートラルの実現という企業の責務を果たすと同時に、この技術を当社の新たな事業の柱として育てていきたい」と、S.S.さんはプロジェクトに挑む意義を語ります。
 「何がなんでも実用化を果たし、『CO₂の分離回収といえばクラサスケミカル』と言ってもらえるようにする」(W.Y.さん)、「世界中の人々に使ってもらえる技術として完成させたい」(O.K.さん)と、研究の最前線からも熱い決意が発せられました。

 プロジェクト達成に向けて、クラサスケミカルの挑戦は続きます。


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