「共感」と「対話」から生まれた、私たちのバリュー

 2026年1月に発表された、クラサスケミカルの新たなバリュー(価値基準)。策定の主役となったのは、本社6名、大分7名、計13人の社員で結成された「バリュー検討チーム」でした。若手からベテランまで、年齢も職種も異なるメンバーが集まったこのチームで、どのように対話を進め、何を目指して4つのバリューを作り上げたのか。そのプロセスと、言葉に込められた熱い想いに迫ります。

座談会に参加したバリュー作成チームメンバー

chapter1
社員の声を出発点に、全員が「腹落ち」する指針をつくる

 バリュー検討チームが発足したのは2025年8月。先行してパーパス策定を担った若手・中堅有志の「ASUプロジェクト」の働きかけにより、多様なバックグラウンドを持つ13人が立ち上がりました。ここから2025年12月の完成までの5カ月間にわたり、オンライン9回、対面2回のミーティングを重ねていくことになります。

 プロジェクトはまず、全社員を対象としたアンケートを実施しました。バリューに盛り込みたいキーワードや会社への想いを募ったところ、約8割という高い回答率を記録。「自分たちの会社を良くしていきたい」という社員の関心の高さに背中を押された検討チームは、集まった膨大な意見をAIも活用しながらカテゴライズし、「どのような言葉に凝縮させるか」を模索していきました。

 外部のコンサルタントに頼るのではなく、ボトムアップ方式で全社員が大切にできるバリューを作りたい――。そのためにチームが最も重視したのは「対話」でした。安易に多数決で決めるのではなく、みんなが納得するまで議論を尽くすスタンスを貫いたのです。
 「ミーティングの場で、すぐに結論を急ぐことはしませんでした。各自が課題を持ち帰って熟考し、1週間後に再び話し合う、というステップを繰り返しました」と、チームリーダーのH.N.さんは振り返ります。また、チーム内だけで意見を固めてしまわないよう、検討の途中経過・アンケート集計結果を見た感想や想いを「対話」で共有し合う「バリュートークカフェ」なども開催し、社員とのキャッチボールも意識しました。

 経営層が検討に加わる際も、基本は「対話」でした。「判断してください」と結論を委ねるのではなく、これまでチーム内で議論してきた過程を報告しながら、経営メンバーにも一緒に考えてもらうスタイルです。これから上場を目指していくクラサスケミカルにとって、バリューは会社運営・経営戦略の根幹。だからこそ、お互いの想いを丁寧にすり合わせ、最適な言葉を探していきました。

 こうして、検討チーム内ではもちろん社員・経営層とも対話を繰り返して、4つのバリューが完成。「行ったり来たりしながら、いろいろな意見を聞いて、話して、決定しました」とH.N.さん。時間と手間は掛かりましたが、みんなが『腹落ち』できるバリューをつくるために必要なプロセスだった、と確信を持っています。

chapter2
受け継ぐべきDNAを示した「誠実であり続けよう」

 クラサスケミカルのバリューを策定するにあたり、チームは2つの方向性を意識しました。ひとつは自分たちがすでに持っている「強み(受け継ぐもの)」を表すこと。もうひとつは「これから目指すべき姿(変えていくもの)」を促すことです。

 受け継ぐべき強みとして、はじめに決まったのが「誠実であり続けよう」です。社員アンケートでも「真面目」「愚直さ」「不撓不屈」といったキーワードが多く寄せられ、「誠実であること」は多くの社員がすでに深く大切にしている価値観でした。どの職種でも、誠実さがなければ仕事は成り立ちません。まさに会社の土台となるDNAです。

 そしてこの「誠実」という言葉には、製造現場を中心に最も多くの支持を集めた「安全最優先」の意味も内包されています。メーカーにとって絶対の使命である「安全」をどうバリューに落とし込むかは、チームでも長い時間をかけて議論しました。
 議論のブレイクスルーとなったのは、あるメンバーの「安全って『結果』だよね」という一言でした。誠実に業務に向き合う各自の姿勢があってこそ、初めて「安全」という結果が達成される。さらに営業職やデスクワークが中心の事務職であっても、「誠実さ」があればコンプライアンスの順守という形で同じ価値観を体現できる。つまり、「誠実」を追求することは、全社員がそれぞれの場所で安全や信頼に向かうこととイコールになる、という結論に至ったのです。

 今まで紡いできた過去に誇りを持ち、これからも変わらず大切にしていこうというメッセージを込めて、このバリューは「あり続けよう」という言葉で結ばれました。

chapter3
対話の出発点をつくる「いいね!からはじめよう」

 4つのバリューの中で、とりわけキャッチーなのが「いいね!からはじめよう」。この言葉の選定にあたっては、社内コミュニケーションのあり方について深い議論が交わされました。

 社員アンケートでは「心理的安全性」を高めたいという声が予想以上に多く寄せられ、さらに自由に意見を交わせる空気感を作りたい、という社員の願いが明らかになりました。社内ミーティングや上司への報告の際、否定的な言葉からスタートしてしまうと、新しいアイデアや挑戦の芽が摘まれてしまいます。多様な価値観を受け入れるためにも、まずは肯定的に「いいね!」と受け止める姿勢を大切にしよう、という方向性が定まりました。

 一方で、チームからは「コミュニケーションやオープンマインドを、全員に強制すべきではない」という意見も出ました。必要以上の交流が苦手な社員もいる、それも含めての「多様性の尊重」であるべきです。だからこそ、このバリューは「密にコミュニケーションをとろう」と強いるのではなく、まずは相手のことを「受け止める」ところからスタートしよう、という意味を込めて「いいね!」という表現に落ち着きました。
 さらに、技術開発のメンバーからは「研究の現場では、何でも『いいね』と言っていては成果が出ない」というリアルな指摘もあり、チームはハッとさせられました。業務を完遂するためには、課題に厳しく向き合い、時には切り捨てる判断も必要です。そこで、「このバリューが求めているのは、あくまで対話の出発点としての『いいね!』である」と整理することで、すべての職種のメンバーが納得できる形になりました。

 最後まで懸念されたのは、「言葉が軽すぎるのでは」「世代によって賛否が分かれるかもしれない」という点でした。しかし社員からの拒否感はほぼなく、経営層からも「すごく良いじゃないか」と歓迎の声が上がり、無事に採用されました。

 否定ではなく、肯定から対話をはじめよう。その後、自分がどうコミットするかは各個人に委ねよう。社内の心理的安全性を高めつつ、自由に行動する余白を残してできたバリューが「いいね!からはじめよう」でした。

chapter4
新会社スタートの決意を込めた「ありたい姿へ挑戦しよう」

 4つのバリューの中でいわば起承転結の「転」、アクションに向けて立ち上がるポイントが「ありたい姿へ挑戦しよう」です。新会社としてのスタートにあたり、社員が持っている前向きな決意がバリューに示されました。

 社内アンケートでは「挑戦」「チャレンジ」「トライ」という言葉が目立ち、検討チームは社員のモチベーションの高さに感銘を受けました。「バリューに『挑戦』を掲げることで、チャレンジングな提案がしやすくなる」という実務的なメリットを期待する声もあれば、「新しく挑戦し続けるしか、会社が生き残る道はない」と、危機感を持って未来を見据える意見もあり、さまざまな角度から「挑戦が必要だ」という強い共通認識が浮かび上がったのです。

 一方で、石油化学産業の上流工程を担う当社にとっては「安定供給と信頼」こそが至上命題であり、挑戦とは相反するのではないか、という議論もありました。しかし、現状維持のままではクラサスケミカルがビジョンに掲げる「次世代石油化学カンパニー」は達成できません。安定供給を果たした上で、もう一歩先へとステップアップしていくための挑戦が不可欠です。

 社員の多くが「挑戦」を志向している背景には、クラサスケミカルが誕生したストーリーがあります。これまでは大企業の中の「一事業部」だった組織が、ひとつの会社として独立を果たしました。積極的な事業展開が求められるフェーズになり、社員一人一人が経営者目線を持って動くことが必須です。それは裏を返せば、社員が「これまで組織の壁でできなかったこと」に挑戦できる、大きなチャンスの到来でもあります。

 そして重要なのが、「何に」挑戦するのか。「あるべき姿」ではなく、「ありたい姿」という言葉を選んだのは、誰かに決められた目標を目指すのではなく、個人やチームの主体性を求めたかったから。目指す未来をそれぞれが描こうという願いを込め、「ありたい姿へ挑戦しよう」が完成しました。

chapter5
自律的に成果へこだわる「みずから動き、やり抜こう」

 バリューが「受け継ぐ強み」と「これから変えていく課題」の2つの側面を持つとき、前者の代表が「誠実であり続けよう」なら、後者の変革を強く促すのが「みずから動き、やり抜こう」です。

 真面目で誠実な社員が多いといわれてきた当社は、これまで強固な「組織力」で業務を全うしてきました。しかしその反面、他の誰かが手を挙げるのを待ってしまったり、主体的に個人プレイで飛び出していったりすることがやや苦手というウイークポイントもある、と多くの社員が自覚しています。
 大企業から独立し、コンパクトな組織としてスタートした今、言われたことをこなすだけでは不十分なのではないか。「これからは各社員の自律的な行動が、会社を前に進める原動力になる」というのがバリュー検討チームの共通認識でした。

 「やり抜こう」という言葉には、アンケートで人気の高かった「プロフェッショナル」「プロ意識」という要素が反映されています。 「プロフェッショナルとは何か?」という定義にも長い時間をかけて議論を重ね、チームは一つの結論に達しました。
 それは、「この4つのバリューをすべて体現できている人こそが、クラサスケミカルのプロフェッショナルである」ということです。「プロフェッショナルとして成果にこだわる=やり抜く」という強い姿勢を込め、ついに最後のバリュー「みずから動き、やり抜こう」が完成しました。

chapter6
4つの言葉の「ストーリー」を、会社の未来を導く道標に

 こうして完成した4つのバリューを並べたとき、チームはあることに気づきました。
 私たちの土台である「誠実」があり、それを受け入れる「いいね!」という関係性があり、目指す「ありたい姿(目標)」を描き、そして「みずから動く(行動)」へつながる――個人→仲間→目標→実行が循環する「ストーリー」がつながっていたのです。
 「みんなの想いを結集させた、口ずさみやすく覚えやすいバリューになりました。単なるスローガンで終わらせず、一人一人の行動につながり、心に染み込んでいくものにしていきたいです」と、チームリーダーのH.N.さんは期待を込めます。

社員に配布されているバリューが記載されたカード

 このバリューを本当の意味で根付かせるため、会社としても具体的な取り組みを進めています。今後は、各部門における目標管理や人事評価の指標、さらには次なる仲間を迎えるための人材採用活動にも、この4つのバリューを適用していく予定です。日々の仕事の中で各社員がよりどころとするだけでなく、会社の仕組みや制度面にも組み込んでいくことで、実効性と説得力を持った「生きた指針」へと育てていきます。

 外部の手を借りず、13人の真摯な「対話」を尽くして紡ぎ出された4つのバリュー。クラサスケミカルグループで働く一人一人がこのストーリーの主人公となり、明日への確かな一歩を踏み出しています。